ナカの目のつけどころ

その手すりでトイレ介助しやすいですか?

病院や介護施設の車いす使用者が利用するトイレには、L型手すりと可動式手すりが設置されています。これは立ち座り動作の補助や、車いすからの移乗時に体を支える、座位姿勢を安定させるためなどの目的で設置されており、一般的な多目的トイレに設置されている手すりと同じ組み合わせです。しかしトイレ介助を行なっている介助者からお話を伺ったところ、「車いすから立ち上がらせる時に手すりが遠いため、一度手すりに寄せてから車いすを便器から離す手間がある(図1左)」「立位姿勢時に利用者が転倒しないように気をつけながらズボンの着脱を行うため、介助者の腰への負担が大きい(図1右)」といった問題点を抱えていることがわかりました。またこういった問題点に対して、介助者は経験と技能によりカバーしているのが現状ではないでしょうか。

L型手すり使用例

図1 L型手すりを用いた動作
(左:車いすから立ち上がり、右:ズボンの着衣)

看護学研究者と医療団体、ナカ工業の共同研究チーム発足

トイレ介助における問題点を解決するための補助具開発を目的に、看護学研究者である國澤尚子教授(公立大学法人 埼玉県立大学)と医療生協さいたま「地域社会と健康研究所」とナカ工業が共同で研究チームを発足しました。また医療生協さいたまとその関連の病院や介護施設で働いている介護福祉士や看護師などの専門職の方々にもチームに参加していただき、実際に利用者の動作解析を行うことで足腰に不安を持つ高齢者や動作に制約のある障がい者(=車いす利用者)がより使用しやすく、介助者も介助しやすい形状を見出す研究を進めました。
既存の手すりはL型手すりに代表されるように壁に近いところに取り付けられており、「手すり」=「握る」という概念でトイレ動作の一部しか補助しておらずトイレ動作を連続して補助してはいませんでした。そこで改めて「トイレ動作全体を意識した補助具はどうあるべきか」ということを意識し生まれたのが立位姿勢をサポートする「RS-1」です。(図2)壁から便器前方に飛び出し、2本の手すり(抗菌・抗ウイルス仕様)が”面”として機能することで立ち座りの動作だけでなく方向転換や立位姿勢保持を伴うズボンの着脱など、トイレ動作を連続して補助することができます。

RS-1

図2 RS-1

※胸あて部分は実際の色とは異なります。

使ってみてわかる良さ

RS-1の効果を検証するため、実際の介護老人保健施設のトイレに設置し、4ヶ月にわたり入所者や介助者に使用していただきました。今までの手すりとは大きく異なる形状のため最初は戸惑う様子が見られましたが、徐々に慣れていくにつれて意識が変化し、「身体を支えてくれるのが良い」「両手で握れるので安心」「このトイレしか利用しなくなりました」といった評価をいただきました。

介助者負担の軽減

もちろんヒアリングだけでなく数値的な検証も行いました。図3は筋電計を用いて介助者の筋負担を計測し「L型手すり後方介助」を基準とした場合の「L型手すり患側介助」と「RS-1後方介助」の比較結果です。トイレ内のいずれの介助動作においてもRS-1を使うことで、腰(腰方形筋)の筋負担が小さくなっていることがわかります。さらに介助に要する時間も短縮されており、スムーズで効率的な介助に繋がっていると考えられます。前方側から利用者を支える動作をRS-1で補うことができるのも大きな特長です。(図4)

介助者の筋負担

図3 介助者の筋負担計測結果の一例(腰方形筋)

前方介助

図4 RS-1を用いた着衣動作

利用者の転倒リスクの低減

図5は、片麻痺者がズボンの着衣を行なっている様子です。L型手すりの場合、縦手すりに身体を預ける必要があるので健側に傾いた状態で身体を揺らしながらズボンを履いています。(図5右)この状態では手すりを軸として回転が生じ、転倒リスクが大きくなります。これに対しRS-1の場合には体幹を真っ直ぐにした状態で身体を安定して預けられるので転倒リスクはかなり低減されます。(図5左)

模擬右片麻痺者の立位保持動作

図5 模擬右片麻痺者の立位保持動作(左:RS-1、右:L型手すり)

設置について

RS-1は壁に固定するだけでなく、床固定による後付けでも設置が可能です。そのために壁の強度が確保できない施設でも利用できます。また身長や体格によってどの位置を掴んでも使いやすい設計になっています。背の低い方や円背の方は下部の横手すり部分を掴むこともできるため、推奨設置高さで身長140cm〜180cm程度の方まで利用可能です。

RS-1設置例

設置例:北海道大学病院(RS-1 Y型)

座位姿勢のサポートも

ナカ工業は、便器に座ってひとりで姿勢を保つことが難しい方、介助を必要とされる方向けに座位姿勢の保持をサポートするトイレ用補助具「ZS-1」も開発しました。介護を必要とする身体に障害がある方のうち、排泄中に便座の上で座位姿勢を保つことが難しく、ずれ落ちたり倒れ込んでしまうような場合があります。この場合、介助者は排便から臀部の洗浄までの一連の動作を常に身体を支えながら行う必要があり、利用者の精神的負担や介助者の身体的負担などが生じることがあります。

ZS-1は上半身の周りにクッションを配置し前後左右の倒れ込みを防止し、また角度可変式のフレームで適切な角度がつくれ、自立したトイレや介助者の負担軽減に貢献します。

※拘束し身体を完全に固定するものではありませんので、寝たきりの方や行動が予測できない認知症の方は対象外です。また介助者の方はその場を離れず見守りをお願いします。