ナカの目のつけどころ

地震に備える建物の構造

地震による揺れから建物を守る構造は一般的に3種類に分けられます。

  • 地震の揺れに耐える「耐震構造」

  • 制震装置で地震による建物の揺れを吸収する「制震構造」

  • 免震装置で建物に地震の揺れを伝えない「免震構造」

このうち免震構造を採用している免震建物は非免震部(地球側)との間に、地震により地面が動いても建物に当たらないように免震ピットと呼ばれる隙間を設ける必要があります。

耐震構造、制震構造、免震構造の違い

耐震構造、制震構造、免震構造の違い

免震エキスパンションジョイント(免震EXP.J.)とは地震による免震建物と非免震部との相対変位に追随可能な接合部の工法のこと、そして接合部の隙間を覆い、人や車が通れるようにカバーする仕上材は免震エキスパンションジョイントカバー(免震EXP.J.C.)と呼ばれています。

パネルの動きと復元しやすい構造

地震時、非免震部は水平方向に大きく動きます。免震ピットの幅方向、いわゆるクリアランスが拡大・収縮する方向をX方向、免震ピットの長手方向をY方向を呼びます。以下は、ナカ工業の「NSF床ジョイント」の各方式です。

地震時のパネルの様子

免震EXP.J.C.納まり図(X方向:片側せり上がり式)

「NSF床ジョイント」出隅45度の動画

  • X方向:片側せり上がり式/スライド式

    X方向は「片側せり上がり式」と「スライド式」の2方式から選択できます。「スライド式」は簡単な構造ですが、パネル厚さ分の段差が生じてしまいます。これを解消したのが「片側せり上がり式」です。通常時は段差がなくフラットな状態ですが、地震時にはパネルの片側がせり上がって移動します。

  • Y方向:スライド式/レールスライド式

    Y方向は「スライド式」と「レールスライド式」の2方式から選択できます。「スライド式」とは免震建物にパネルが固定されている状態で、地震時に非免震部上をパネルがスライドします。「レールスライド式」とは免震建物とパネルの間にレールが配置され、地震時には免震建物とパネル間でスライドします。このためY方向の移動に制約がある場合(例えば、玄関エントランスまわり等)に使われることがあります。

X方向は「片側せり上がり式」が選択されることが多く、「NSF床ジョイント」は地震時にパネルがせり上がる際、パネル固定部が側面にあるため、そこを中心として回転運動に近い動きをします。パネルのせり上がりが戻った際には、パネルの目地が元に戻りやすいという特長があります。(特許取得済)

パネル固定部

パネル固定部

クリアランスと設計可動量

「NSF床ジョイント」のクリアランスは500・600・700(mm)の3種類で、設計可動量+施工クリアランス(精度)+残留変位を元に選択します。設計可動量とは、設計時に地震による応答解析を行い、建物の動く距離を計算した結果です。この値に施工上の精度、残留変位などを考慮してクリアランスを決定します。

クリアランス = 設計可動量 + 施工クリアランス(精度)+ 残留変位

また免震建物がX方向に縮んだ場合、パネルは通常時よりも外側にせり出すので、パネル長さ+可動スペースに境界や障害物がかからないように設計する必要があります。
なお都市部においては隣地とのスペースが十分でなく、免震建物であっても上記の可動スペースを確保できない場合があります。このため可動スペースを小さくした狭小タイプの免震EXP.J.C.についても、2022年10月より発売を開始しました。

可動スペースとクリアランスの関係

可動スペースとクリアランスの関係

都市部の狭小地にも対応

2022年10月より発売開始した「NSF床ブロック」は、パネル長さを小さくした狭小タイプの床免震EXP.J.C.です。都市部においては隣地とのスペースが十分でなく、免震建物であってもパネルの可動スペースを確保できない場合があります。そのような狭小地でも地震時に障害物に干渉することなく可動することができるのがNSF床ブロックです。

狭小免震

狭小タイプ納まり図(パネル納まり)

性能指標

(一社)日本免震構造協会発行の「免震エキスパンションガイドライン」には、免震EXP.J.の性能が下表のように設定されています。

性能指標 大地震後の損傷状態 確認方法 参考使用箇所
A種 機能保全 設計可動量までは損傷しないことを振動台試験により確認する。(振動台の可動量が小さい場合にはオフセットして試験することも可とする) 避難通路、人・車の通行の多い箇所
B種 損傷状態1 設計可動量において軽微な損傷であることを振動台試験により確認する。または設計可動量まで損傷しないことを加振台試験により確認する。 人の通行のある箇所
C種 損傷状態2 図面により可動することを確認するのみ。 ほとんど人の通行がない箇所

※振動台:実際の地震時の動きを再現できる装置
※加振台:一定の動きのみ可能な装置

このうち、最も性能指標の高いA種の「機能保全」とは変形・傾き・隙間などの機能上の支障がないこととされ、A種のみが大地震後も機能を確保し、補修せずに継続使用が可能です(仕上げのすりキズやシール切れなどの軽微な損傷は可)。B種の「損傷状態1」とは過大な変形・傾き・隙間がなく、地震後に調整・補修を行うことで継続使用が可能であり、段差や多少の壁の突出があるものの通行に支障がない状態です。C種の「損傷状態2」とはやや大きな損傷が生じるが、機能を喪失するような損傷はなく、大規模な補修または部品の交換で再使用可能であり、床段差や壁の突出はあるが脱落はなく通行が可能な状態です。

振動試験の様子

独立行政法人都市再生機構で行った振動試験の様子

ナカ工業の「NSF床ジョイント」は、耐荷重T-20(車両総重量20トン用)、クリアランス700mmでA種の振動試験をクリアしています。地震が起きた後も補修せずに使用できるため、その後の余震にも対応できます。また狭小タイプの「NSF床ブロック」はB種をクリアしています。